用語集

用語集


 オハンロン・モデル

催眠に習熟しはじめたカウンセラーは、やがてクライエントを催眠に導くことが容易にできるようになります。しかし、「クライエントを催眠状態に導くことはできたけど、このあとこの人の問題を解決するためにここから何をどうしたらいいの?」という壁に多くの人がぶつかることになります。

このような問いに対して、「こうすればいいんだよ」とビル・オハンロンは答えを明確に示してくれています。この答えを導き出すときに利用する公式のことを、オハンロンは「問題のクラス・解決のクラスモデル(class of problems /class of solutions model)」と言っています。

これは、オハンロンが、ミルトン・エリクソンの催眠療法を研究して見いだしたものです。私は、この公式の長い名称を短くするために、「オハンロン・モデル」と言って使っています。



<参考文献>

(1)「ミルトン・エリクソンの催眠療法入門」B・オハンロン、M・マーチン著 宮田敬一監訳、津川秀夫訳 金剛出版(2001)




 外在化

カウンセリングは、ターゲットとする問題に対して、カウンセラーとクライエント(複数のときもある)が共働して立ち向かう、という構造で行う必要があります。そのためには、ターゲットとする問題や問題の要因を、本人に帰するのではなく、本人の外部に帰さなければなりません。

本人の外部に、ターゲットとする問題そのものや、問題の要因を帰属させるためには、帰属対象となるものを生み出す必要があります。このことを問題の『外在化』と言います。 ただし、『外在化』の対象は、それがある、と本人が実感できることが必要で、実際にその対象があるかどうか、あるいは正しいか間違っているか、は問いません。

もしも、『外在化』しないでカウンセリングを行うと、結局、「あんさん(クライエント)が変わらな、何もおきまへんがな!はよ、かわりなはれ!」となってしまい、本人の自覚を促すだけになってしまいます。

誰もが初めに試みる自覚の促進だけでは解決しないからこそ、カウンセリングに来るのです。なのに、カウンセリングでまた、自覚の促しによって問題を解決することを求めても、問題は解決しません。

実際のカウンセリング場面では、問題の外在化の対象を生み出すために、クライエントとのやりとりで、工夫をすることになります。例をあげます。



(例1)
セラピスト:〈いつでも完璧でなければならない、というあなたの性格に問題がありますね。これを変えないと、いけませんね。〉

(解説1)
これだと、あなたの性格をあなたが変えなければならない、となってしまいます。
外在化の対象を生み出すためには、例えば、次のようにします。


(例2)
セラピスト:〈あなたが完璧を目指すときには、あなたの中にいる完璧さんが動き出すのではありませんか?〉
クライエント:〈どういうことですか?〉
カウンセラー:〈完璧さんが、「そんなんではダメだ、完璧にやらないといけないよ」とささやいてきたりして…。
そして、その言葉にのせられて、あなたはつい完璧に振る舞おうとしてしまう…あなた自身は、完璧から脱しようと思っているんだけど…つい完璧さんにのせられて…。
クライエント:〈そうですね、完璧にしないようにとは思っているのですが…完璧にしなくちゃってなっちゃうんですよね。〉
カウンセラー:〈完璧さんがそそのかしてくるからね(笑)〉
クライエント:〈(笑)そうですね、私はそそのかされているかもしれません(笑)〉
セラピスト:〈あ、やっぱりですか(笑)…その完璧さんのそそのかしになのせられないためにどのようにするのか、それを考えることが我々がカウンセリングで行う必要のあることのようですね…(話しは続く)。〉


(解説2)
例2では、「あなたの性格」ではなく、あなたに影響を与える「完璧さん」を外在化対象とし、それに対してカウンセラーとクライエントがどう応じるかを考える。このような構造でカウンセリングを構成しようとしています。このようなカウンセラーとのやりとりで、外在化対象を生み出していきます。




 催眠療法

催眠療法は、上記のような催眠の独自性であるトランス状態を利用して、問題状況下にいる人の、問題を解決するために役立つと思われる体験(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、イメージ、感情、対人関係)を喚起して、そこに変化をもたらすことで問題解決を行う治療法です。

催眠療法では、トランス状態を利用して、意識がはっきりとしている状態ではアクセスできない、身体反応などの潜在意識レベルへの介入が可能となるのです。




 ジョイニング

ジョイニングとは、クライエントさんが発しているものに、カウンセラーが波長をあわせることを指します。
クライエントさんの持ち物、服装、雰囲気、表情、発言(考え)、語調、気持ち、フレーム等のどれか1つあるいは複数に合わせた応答をセラピストが行い、その応答が相手に受け入れられると、ジョイニングが一つできたことになります。

このような波長合わせがうまくいくと、クライエント側のカウンセラーに対する信頼感が増したり、なんとかなるかもしれないという期待や一緒に問題に取り組んでいこうという気持ちも高まります。また、クライエントとカウンセラーの共働関係は強固になります。さらには、これによって、両者共に話が通じやすくもなります。


ただし、ジョイニングは流動する関係のなかで生じるため、一つジョイニングできても、ジョイトが外れることもあります。そのため、カウンセラーはカウンセリング中のいつでも、ジョイニングへの関心とジョイニングしようとする試みが必要となります。


【ジョイニングの例1】
デザインの変わった時計を身に付けている女性クライエントが、初めてのカウンセリングで入室してきました。
カウンセラーは、次のように言いました。
カウンセラー:「こんにちは、はじめまして○○と申します、よろしくお願いいたします。
あっ、とても素敵な時計をされてますね。」
それを受けてクライエントは、次のように言いました。
クライエント:「そうですか、ありがとうございます。
すごく気に入っている時計なんですよね(ニッコリ)。…(このあと、この時計をどうやって手に入れたのかの話が続いた)。」
[解説]カウンセラーの応答は、クライエントさんに受け入れられたようですね。
1つジョイニングが成功したのかもしれません。



【ジョイニングではない例】
デザインの変わった時計を身に付けている女性クライエントが、初めてのカウンセリングで入室してきました。
カウンセラーは、次のように言いました。
「こんにちは、はじめまして○○と申します、よろしくお願いいたします。
あっ、とても素敵な時計をされてますね。」
それを受けてクライエントは、次のように言いまし た。
「(怖い顔をしながら)そんなことより先生、私の話を聞いてください…。」



[解説]
この【ジョイニングではない例】のほうは、相手に受け入れられなかったようなので、ジョイニングは上手くいかなかったようですね。



【ジョイニングの例2】
クライエント:私は他者の評価によって自分の価値を決めています。自分で自分の価値を見いだすことができません。
他人が自分を必要としてくれることで、自分は生きていて良いのだと思えるのです。だから、自分の良いところなんてどうでもいいんです。
カウンセラー:そうか~…あなたは他人の評価でしか自分の価値を見いだせないんだね。
…だとすると安定できないよね。
他人さんが良く評価してくれるときは良いけれど、悪く評価されはじめたらガックリきちゃうものね。
また、他人さんの評価は、そのときどきで変わることもあるしな~。
まして、他人だからコントロールするのもままならないしね。
こういう意味で、安定できないよね。
…あっ、僕の理解は間違っていませんかね?
クライエント:あっ、はい、その通りです(瞬きの回数が減り、カウンセラーを凝視しながら、心なしか目がキラキラ輝いている感じになっている)、安定しなくて…。



[解説]
この【ジョイニングの例2】のほうは、カウンセラーがクライエントの発信をどのように受け取り理解したのかをカウンセラーが言葉で伝達し、それらがクライエントに受け入れられたようです。クライエントの反応も、ジョイントが一つできたときによく起こる反応のようです。 なので、ジョイニングは一つできたようです。




 トランス状態

トランス状態とは、催眠誘導という一連の言葉がけによってクライアントの脳波をアルファ波からシータ波の非常にリラックスした状態にしていくことで、その人の不随意な体験をコントロールできるように導かれた状態を指しています。(なぜ催眠誘導によって不随意体験がコントロールできるようになるのか…理由ははっきりとわかっていません…最近の研究では、催眠誘導プロセスによって、前頭葉を中心とした言葉(意識の検閲が麻痺することが関係しているのではないか、と示唆されていますが…)

不随意体験のコントロールとは、例えば、音声のボリューム、意識が集中するポイントの変化、血流量のコントロール、手のマヒ、記憶やイメージの変容、身体反応等々です。




 野田マップ

野田俊作が、1993年に日経サイエンスに発表した論文中に掲載されています。
心理的な問題を解決するためのカウンセリングでは、何をどのように構成し、どのようなデザインにしたらよいかを教えてくれる公式です。私は、それを『野田マップ』と言っています。

『野田マップ』は、次の4つからなります。
(1)現在の問題の原因の帰属についての理解が治療者-患者間で共有され
(2)解決像が(明示的にであれ暗黙にであれ)共有され
(3)現在の状態から解決増に至るための手続きが共有され
(4)かつ患者がその手続きを実行したとき,治療は奏功する

この野田マップを利用することによって、一度のカウンセリングで症状を消失させてしまうという魔法のようなカウンセリングも可能となります。

私は初学者の頃から、個々の事例の解ではなく、解を導きだす公式が知りたくて仕方ありませんでした。公式がわかれば、そこに個別の状況を入力して、解法を自分で導きだせる、と思ったからです。

 この「野田マップ」は、私の求めていた公式そのものでした。これを知ったおかげで、私も魔法のようなカウンセリングを行えるようになりました。それくらい凄い理論なのですが…残念なことに、ほとんどのカウンセラーは、これを知らないし、利用したこともないようです。 クライエントに良い変化を起こすには、必須の理論で、習熟して欲しいと僕は思っているのですが…。



<参考文献>
(2)野田俊作:別冊日経サイエンス「脳と心」.全人格的な心の治療.日経サイエンス社;197,(1993)




 リフレーミング(再・枠組み作り/再・意味づけ)

フレーム(枠組み)とは、個人の言動によって、他者に観察確認が可能となる、その個人の持っている価値観や意見、自動思考(フッと心に浮かぶ考え)、信念(基本的に深く信じていること)等のことを意味します。「受け止め方」、「意味づけの仕方」といった言い方をすることもあります。

リフレーミングとは、カウンセラーとクライエントとのやりとりによって、クライエントのフレームを、カウンセラーの志向する方向へ変化させる働きかけのことを指します。

なお、個人のフレームは、様々な人生経験によって獲得されたり消去、修正がなされたりします。そうした人生経験の一つに、他者とのやりとり、コミュニケーションがあります。リフレームとは、コミュニケーションを利用して、フレームを変化させていく働きかけということもできます。
また、リフレイミングは、ポジティブな方向への変化(ポジティブ・リフレイミング)とネガティブな方向への変化(ネガティブ・リフレイミング)があります。



<参考文献>
(3)東豊:リフレーミングの秘訣.日本評論社;14-20,(2013)